いとちりの防災教育にGIS(3)—写真を地図で整理する

「身の回りの危険な場所を撮影してみよう」と,生徒に写真を撮らせたり,災害で被害を受けた場所の様子を提示するなど,防災教育には,写真や動画がつきものです。

最近は,スマートフォンやGPS付き携帯電話の普及で,写真を撮れば位置情報(ジオタグと言います)が自動的に付与されますが,古い写真や,インターネットからとってきた資料写真にはついていません。ジオタグを添えて,地図と組み合わせた教材にしてみましょう。

1.ジオタグの付与

図1

図1 Picasaで写真にジオタグをつける

ジオタグの付与には,Google の無料写真管理ソフト「Picasa」を使います。ジオタグをつけたい写真を選び,右下のプレイスマークのボタンをクリックして「場所」パネルを開きます。すると,Google Mapが入った細長いウインドウが開きますので,緑色のプレイスマークボタンを動かして,写真が撮られた場所を指定します(図1)。

2.ファイルのエクスポートとKMLファイルの作成

図2

図2 ジオタグ付きの写真のみを表示

次に,ジオタグをつけた写真のみを抽出して別のフォルダにコピーします。「Picasa」のツールバーの下,中央付近に「フィルタ」というボタン群がありますので,その中の一番右,「ジオタグ付きの写真のみを表示」をクリックすると写真が絞り込まれます(図2)。写真を絞り込んだら,「ファイル」から「フォルダに画像をエクスポート」を開き,写真を別の場所に保存します。フォルダの名前には,撮影日や場所など適当な名前を付けます。

3.「地図太郎」でKMLファイルを作る

ジオタグがついた写真は,「地図太郎」,「カシミール3D」等各種GISソフトで地図の上に置いて管理することができます。「Picasa」からKMLファイルを直接書き出すこともできますが(図4),ここでは「地図太郎」を使った方法を紹介します。

図3

図3 「地図太郎」にジオタグ付き写真を取り込む

「地図太郎」を開いたら,日本地図の白地図が描かれた初期設定画面が出ますので,地図の上に先ほど作ったジオタグ付きの写真をまとめて載せます。すると,緯度経度を自動的に割り出して白地図上に写真が配置されます(図3)。

図4

図4 KMLファイルを作成してGoogle Earthで開いたところ

4.地図と写真から防災景観を読み取る

図5

図5 地形図・標高区分メッシュとの重ねあわせ

国土地理院の基盤地図情報(標高5mメッシュ)を「地図太郎」に取り込んで塗り分けを行い,Google Earth上で重ねてみました(図5)。

今回写真を集めた伝法沢川は,前回取り上げた潤井川の支流ですが,大きな扇状地を形成しています。扇央部はほぼ水無川に近い状態ですが,大雨が降った際は大量の水と土砂が潤井川に流れこみます。しかし,潤井川自体も扇状地を形成していて,合流点付近は天井川であるため,伝法沢川の水が行き場を失って潤井川左岸に洪水をもたらしてきました。現在は,潤井川との合流点に調整池と排水機場が建設されました。かつては東名高速道路の盛り土や防音壁が,雨水をせき止めて冠水被害を起こすこともありましたが,現在,高速道路の傍に,新しい調整池を建設中する工事が進んでいます。ちなみに,先ごろ開通した「新東名高速道路」は,盛り土ではなく高架橋が多用されています。

連載は,二宮書店の新しいWebサイト上で続きます。防災教育に使える「小ワザ」に加え,ここぞという場所を紹介してまいります。マニュアルやデータ,景観写真をダウンロードできるようにしてまいりますので,活用いただければ幸いです。

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(静岡県立吉原高等学校・伊藤 智章)

リンク

※詳しいマニュアルは,著者のウェブサイト「いとちり」に掲載されています。
http://www.itochiri.jp/

いとちりの防災教育にGIS(2)—ハザードマップの教材化

自治体のホームページを開くと,地震や洪水を想定した災害予測地図(ハザードマップ)を見ることができます。ただ,その多くは,住民に配布された地図の画像をPDFファイル等にしたもので,情報の書き込み,取り出しはできません(図1)。今回は,Google Earthを使ってハザードマップを教材化します。

図1

図1 PDFファイルで提供されているハザードマップ(静岡県富士市)

1.単純。でも有用な「イメージオーバーレイ」

図2

図2 「イメージオーバーレイ」によるハザードマップ画像の重ね合わせ

一番簡単な方法は,PDFハザードマップを一旦画像ファイルにして,必要な場所を切り取った上で,Google Earthの衛星画像上に重ねて場所を合わせる方法です(図2)。「イメージオーバーレイ」という機能を使います。一旦画像を載せた上で「プロパティ」を選ぶと,画像の向きや大きさ,歪みの調整をすることができます。地図とはいえ,ハザードマップは完全に「絵」ですので,下の衛星画像に合うよう,ひたすら調整する必要があります。

2.GISソフトによる自動補正

図3

図3 Quantum GISによる「ジオ・リファレンス」

とはいえ,全く補正されていない図をいきなり衛星写真の上に載せて作業するのもなかなか大変です。そこで,フリーのGISソフトを使って,大まかに形を整えてからGoogle Earthに載せる方法もあります。Quantum GISというソフトで,「ジオ・リファレンス」という機能を使います(図3)。
Quantum GISでは,あらかじめ読み込んだ白地図(国土地理院の「基盤地図情報」など)を手掛かり,「この岬はこれ」「この交差点はここ」といった形で,共通する場所を10地点ぐらい指定すると変換してくれます。それでも,完璧に位置が合うわけではない上,地図画像の画質が落ちてしまう弱点があります。Google Earth上に地図画像を載せる際や,浸水域をマウスでなって「ポリゴン」(塗りつぶし面)を作るといった際の,下絵として使うための補助として考えてください(図4)。

図4

図4 ポリゴン(塗りつぶし面)の作成

3.防災教育への活用

図5

図5 Google Earthへの 展開例

潤井川は,富士山の大沢扇状地を源流に,駿河湾に注ぐ全長26㎞の1級河川です(図5)。富士山西麓では「大沢崩れ」と言われる大規模な侵食が続いており,流出した土砂は河口の田子ノ浦港まで運ばれます。下流域では,堤防の間に土砂がたまって河床が高くなる現象(天井川)がみられます。現在は,上流に放水路が作られて,富士川に水の一部を流していますが,それがなかった時代は,融雪期や台風シーズンに大きな洪水をおこしました。
川沿いには,河床より低い土地の水をくみ上げるポンプ設備や,住宅開発を制限している遊水地,遠隔操作で上下する堰など,水害に対処するための備えがみられます。

今回紹介した方法は,様々な地図に応用できます。市街地図や旧版地形図などと組み合わせて,災害のリスクだけでなく,その原因と対応を学べる教材を作ってもらえればと思います。

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(静岡県立吉原高等学校・伊藤 智章)

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※詳しいマニュアルは,著者のウェブサイト「いとちり」に掲載されています。
http://www.itochiri.jp/

■Quantum GIS公式サイト
http://www.qgis.org/

いとちりの防災教育にGIS(1)—ハザードマップを自作する—基盤地図情報の利用

こんにちは。今号から3回にわたって,デジタル地図を使った防災教育の教材を作ります。新しい学習指導要領では,GISの必修化と(地理A・B)新単元「自然環境と防災」(地理A)が登場します。GISと防災を積極的に活用して,「地理を学ぶ意義」を地域にPRいただければと思います。
今回は,国土地理院が公開している「基盤地図情報」を使って,身近な地域の標高区分図を描きます。データの加工に使うソフトは,「地図太郎」(DL版で¥3,500。2週間利用可能な試用版あり)です。

1.標高データの入手

図1

図1

まず,インターネットで「基盤地図情報」と検索して,サイトにアクセスして。標高数値標高モデルの「JPGIS(GML)形式」をダウンロードします(図
1)。標高メッシュは,市町村単位ではなく,メッシュコード単位でダウンロードするようになっています。自分が欲しい場所のメッシュコードを知るには,「地図太郎」で,「表示」から「標準地域メッシュ」を選び,メッシュコードが出ますので,それでコードを確認します(図2)。

図2

図2

2.地形図に重ねる

図3

図3

図4

図4

図3は,神戸市の海岸部の標高メッシュ読み込んだところです。この上2万5千分の1地形図「ウオッちず」を重ねることができます(図4)。できた画像を保存して「Google Earth」の上に重ねることもできますので,鳥瞰図にして見せることもできます(図5)。

図5

図5

3.地図を持って外に出よう

写真1

写真1

写真2

写真2

写真1・2は,神戸市東灘区を流れる石屋川の堤防で撮ったものです。児童公園の景色と不釣り合いな太い鉄のパイプ群は,阪神大震災を機に堤防内に設置された耐震型の防火用水槽の消火栓です。天井川地形で,なおかつ水がほとんど流れていないため,震災瓦礫が狭い路地を覆ってしまったため消火活動が思うように進まず,多くの犠牲者を出した事は周知のとおりです。土手に据えられた消火栓には,二度と同じ轍を踏むまいという人々の強い決意を見て取ることができます。このように,実際に足を運んで見たこと感じたことを盛り込んで行くことで,より「地理らしい」防災教育の教材を作ることができるのではないでしょうか。

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(静岡県立吉原高等学校・伊藤 智章)