変動するフィリピン

経済開発と国土空間形成

概要

外資導入に伴う輸出指向工業化のなかで,東南アジア諸国は著しい地域変容を経験した。本書では,ラモス政権以降のフィリピン共和国を対象に,地域経済発展の諸相と地域間・階層間の格差のゆくえを分析の主軸に据えて論究した。

説明

本書は,ラモス政権以降,新たな経済開発が進むなかでのフィリピンの国土空間形成に関して論じたものである。本書で扱っている国土空間形成はかなり広義なものであり,ナショナルスケールでの産業配置,所得分配を軸に,メソスケールでの都市・産業空間形成,ミクロスケールでの人間活動と土地とのかかわり合いまでを包含している。いかなる空間的様態を前提に経済発展はなし遂げられるのか,それに伴い,大小さまざまな地域スケールでいかにして空間的変容がもたらされているのか,そしてまた,いかような不均衡と地域問題が生起しているのか。このようにみつめるなかで,オルタナティブな開発のあり方を見いだしていけるのではないかと思う。このような作業は,地理学者の日常的営為にほかならないのかも知れないが,本書では,経済発展と地表空間の関わり合いを検討するなかに,社会階層的な視点,政治・行財政的な視点を多分に介在させた。

目次

口絵

第1章 東南アジア経済発展とフィリピン─変わる政治経済地理─

1.モノカルチャー,輸入代替工業化から輸出指向工業化へ

(1) ロストウの発展段階論とヌルクセの工業化論

(2) 雁行形態的経済発展論

(3) 輸入代替工業化の実現と限界

(4) 輸出指向工業化で成長を遂げたNIEs

(5) ASEANにおける輸出指向工業化の端緒

2.東南アジアの新しい工業化

(1) プラザ合意以降の局面

(2) 日本からみた対ASEAN直接投資

(3) アジア新国際分業とASEAN域内産業協力

(4) AFTAの実現と分業体制への影響

3.東南アジア経済開発の空間戦略

(1) 成長の極理論

(2) ミュルダールの累積的因果関係論

(3) 都市システムの進化モデル

(4) グローバル経済・ブロック経済の下での空間戦略:その困難性

4.フィリピン経済開発の政策課題

(1) 経済成長のための開発パラダイム

(2) フィリピンにおける開発政策

(3) 環境政策への取組み

第2章 フィリピンにおける産業立地政策と地域経済開発

1.はじめに

2.フィリピンにおける産業立地政策および地域開発政策の推移

(1)  輸入代替工業化と立地システムの形成

(2) マルコス政権下における産業政策と産業立地政策

(3) アキノ政権下における産業政策と産業立地政策

(4) ラモス政権下における産業政策と産業立地政策

3.カラバルソン地域における経済開発

(1) マスタープランの目的と空間戦略

(2) カビテ州およびラグナ州の開発

(3) その他の州の開発

4.中部ルソン地域における経済開発

(1) 立ち遅れた開発

(2) スービック開発

(3) クラーク開発

5.セブ地域における経済開発

(1) マクタン・エコノミックゾーン

(2) セブ地域総合開発

6.国土政策への視座

第3章 フィリピンの地域経済格差と公共政策

1.経済開発と政府の役割

2.地域経済格差の時系列推移

3.公共投資と地域開発政策にみる地域格差

(1) 地域開発計画と政府の方針

(2) 予算配分にみる公共投資

(3) 公共投資にみる政策と実態

4.地域格差の是正を実現するための課題

第4章 メトロマニラ南郊における日系製造業の集積・連関構造

——ラグナテクノパーク進出企業の事例研究——

1.はじめに

2.メトロマニラ南郊における工業団地整備と企業集積

(1) フィリピンの新しい工業化

(2) メトロマニラ南郊の工業団地整備

(3) ラグナテクノパークとその周辺

(4) 調査対象事業所の概要

3.電子機器メーカーの生産分業体制—ストレージ機器の生産を中心に

(1) 松下通信工業

(2) 日立製作所

(3) ストレージ機器関係の部品サプライヤー

4.自動車メーカー・部品サプライヤーの事業展開と生産分業体制

(1) 本田技研工業

(2) いすゞ自動車

(3) 本田系サプライヤー

5.集積形成の論理と展望

第5章 中部ルソン地域の抱える農業問題

1.本章の課題

2.中部ルソンの自然と農業

3.自然災害の影響——ラハール被災地の土地利用変化——

4.丘陵地における小規模灌漑の効用と問題

5.小規模農家の現状

6.まとめ

第6章 北部ルソン山岳地帯における生業活動と経済構造

1.はじめに

2.各州の空間的位置関係と経済水準の関連性

3.ベンゲット州とイフガオ州にみる経済構造

(1)  事例地域の概要

(2)  ベンゲットとイフガオの世帯所得構造

(3)  ベンゲット州の社会経済的背景

(4)  イフガオ州の社会経済的背景

4.地域開発の新たな可能性

第7章 周辺部ASEANの開発戦略

——南部ミンダナオ地域とその中心市ダバオ——

1.本章の課題

2.南部ミンダナオ地域とダバオ市

(1) 南部ミンダナオ地域の概観

(2) ダバオ市の概観

3.東ASEAN成長地域構想とその進展

(1) EAGA構想の目標と運営機構

(2) EAGA構想の進展

4.ダバオ市の地域変容と都市計画の進展

(1) EAGA構想に伴う交通流動の活発化

(2) EAGA構想に伴う地域経済および都市空間の変容

(3) ダバオ市における都市計画の進展

5.南部ミンダナオ地域における域内格差と地方計画の課題

(1) 地域経済成長の跛行性

(2) 地方計画の進展

6.地域経済開発の課題

第8章 中間層の拡大と重層化する社会構造

1. はじめに

2.フィリピンにおける中間層と空間分布

(1) 中間層の台頭とその役割

(2) 階層間格差の推移

(3) 中間層の形成と空間的特性

3. 貧困層をめぐる諸問題

(1) 「貧困」の捉え方

(2) 貧困発生率の空間的特性

4.中間層の成長と環境への影響

フィリピン共和国行政地域区分図

索引

主要典拠統計一覧

あとがき

コラム目次

① 東南アジアとフィリピンの自然

② マニラ首都圏の形成と発展

③ 地域格差形成のフレームワーク

④ 出稼ぎ大国フィリピン

⑤ フィリピンの森林

⑥ フィリピンの世界遺産

⑦ フィリピンの国民統合とミンダナオ問題

変動するフィリピン書影
  • 発行日:
  • 判型:A5判
  • ページ数:232ページ
  • 定価:本体2,800円(税別)
  • ISBN:978-4-8176-0331-9
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