いとちりの防災教育にGIS(2)—ハザードマップの教材化

自治体のホームページを開くと,地震や洪水を想定した災害予測地図(ハザードマップ)を見ることができます。ただ,その多くは,住民に配布された地図の画像をPDFファイル等にしたもので,情報の書き込み,取り出しはできません(図1)。今回は,Google Earthを使ってハザードマップを教材化します。

図1

図1 PDFファイルで提供されているハザードマップ(静岡県富士市)

1.単純。でも有用な「イメージオーバーレイ」

図2

図2 「イメージオーバーレイ」によるハザードマップ画像の重ね合わせ

一番簡単な方法は,PDFハザードマップを一旦画像ファイルにして,必要な場所を切り取った上で,Google Earthの衛星画像上に重ねて場所を合わせる方法です(図2)。「イメージオーバーレイ」という機能を使います。一旦画像を載せた上で「プロパティ」を選ぶと,画像の向きや大きさ,歪みの調整をすることができます。地図とはいえ,ハザードマップは完全に「絵」ですので,下の衛星画像に合うよう,ひたすら調整する必要があります。

2.GISソフトによる自動補正

図3

図3 Quantum GISによる「ジオ・リファレンス」

とはいえ,全く補正されていない図をいきなり衛星写真の上に載せて作業するのもなかなか大変です。そこで,フリーのGISソフトを使って,大まかに形を整えてからGoogle Earthに載せる方法もあります。Quantum GISというソフトで,「ジオ・リファレンス」という機能を使います(図3)。
Quantum GISでは,あらかじめ読み込んだ白地図(国土地理院の「基盤地図情報」など)を手掛かり,「この岬はこれ」「この交差点はここ」といった形で,共通する場所を10地点ぐらい指定すると変換してくれます。それでも,完璧に位置が合うわけではない上,地図画像の画質が落ちてしまう弱点があります。Google Earth上に地図画像を載せる際や,浸水域をマウスでなって「ポリゴン」(塗りつぶし面)を作るといった際の,下絵として使うための補助として考えてください(図4)。

図4

図4 ポリゴン(塗りつぶし面)の作成

3.防災教育への活用

図5

図5 Google Earthへの 展開例

潤井川は,富士山の大沢扇状地を源流に,駿河湾に注ぐ全長26㎞の1級河川です(図5)。富士山西麓では「大沢崩れ」と言われる大規模な侵食が続いており,流出した土砂は河口の田子ノ浦港まで運ばれます。下流域では,堤防の間に土砂がたまって河床が高くなる現象(天井川)がみられます。現在は,上流に放水路が作られて,富士川に水の一部を流していますが,それがなかった時代は,融雪期や台風シーズンに大きな洪水をおこしました。
川沿いには,河床より低い土地の水をくみ上げるポンプ設備や,住宅開発を制限している遊水地,遠隔操作で上下する堰など,水害に対処するための備えがみられます。

今回紹介した方法は,様々な地図に応用できます。市街地図や旧版地形図などと組み合わせて,災害のリスクだけでなく,その原因と対応を学べる教材を作ってもらえればと思います。

ダウンロード

(静岡県立吉原高等学校・伊藤 智章)

リンク

※詳しいマニュアルは,著者のウェブサイト「いとちり」に掲載されています。
http://www.itochiri.jp/

■Quantum GIS公式サイト
http://www.qgis.org/